『Nocotta』

←【十七.勝ち上がり】
→【十九.棚田恋】

【十八.決勝】

午後五時、いよいよ八重山部屋との決勝戦が始まる。観客席もいっぱいになり、満員御礼の幕が下がる。

準決勝では気持ちが入らず負けてしまった西九条知美も、今回はしっかり集中していた。突き押しをいなし、下手を取って頭をつけ、粘る。そして相手が出てきたタイミングを見計らって筑前竜譲りの下手投げ。

次鋒には、ケガの往来来代に代わって下町真知が入った。
気合いの入った顔を作りつつ、立ち合いから、突っ張りをステップワークで軽くいなしての引き落とし。
パワーで正面からやり合ってはかなわないと見た下町真知の、精一杯の作戦。

これで二勝し、ぱっしょん部屋は優勝にリーチがかかったことになるが、八重山部屋の一同は顔色一つ変えず、悠然としている。中堅以降の三人に絶対の自信を持っているからだ。

八重山部屋チームは、前二人は言わば前座扱い、これからの三人だけで成り立っているチームと言っても過言ではない。

中堅戦。これまで準々決勝・準決勝と勝ってきた玉緒虎子であったが、いきなり四つに組まれ、投げ技で崩されてそのまま寄り切られた。力と技術に歴然とした違いがある。

副将戦。ここで決めてやろうと小田中光、俄然気合いが入る。相手は、個人戦で女大関の称号を得た境港ノ川(さかいみなとのかわ)。

立ち合い、軽く突き合った後、右四つの形になり、しばらく膠着状態が続いた。共に時々投げにいくが、お互いなかなか崩せない。実力は五分と見てよさそうだ。

「はっけよい!」

行司の声がかかる。 一呼吸おいて、境港ノ川が引いて下手出し投げにいく。一瞬集中力が切れていた小田中光は、その投げだけは何とかこらえたものの、振り回されて完全にバランスを崩し、次の左上手投げで土俵に転がされてしまった。

小田中光は悔恨の表情を浮かべ、場内は「勝負あり」の空気になる。
礼をしたときには悔恨の表情だった小田中光も、土俵下のチームに戻った時は、明るい表情を作っていた。悔しさはあったが、だからと言ってそれを引きずってはいけない、と、次の取組を待つ棚田恋を思いやってのことだった。

「恋ちゃんがんば!」

と声をかける。

以前は自分のことしか見えなかった小田中光が、周りも見えるようになったんだ、と、その成長ぶりに鈴木は感心した。娘の成長を見る親の気持ち、だろうか。

ここに理事長がいたら、きっと泣いてるな。

←【十七.勝ち上がり】
→【十九.棚田恋】