『Nocotta』

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【十六.決勝大会】

筑前竜は、膝の骨や腱などを傷め、当分は車椅子生活になるとのことだ。

相撲の方は、現役引退。ま、本人は最初から、一場所だけと決めていたようではあるが。

初場所も終わり、ぱっしょん部屋の次の目標は、二月の女子団体戦決勝大会、となる。理事長のお陰でいきなりベスト8だ。

「えーと、そろそろ出場登録の手続きをするので、四股名の確認をしとくね。」

塩撒寺の稽古場で、鈴木が、女子力士達に囲まれるようにして立っている。その輪の外に、住職と車椅子の筑前竜もいる。

まずは京女知美。

「知美は…西九条?」

「それ、ウチの出身地。」

続いて結果オーライ来代。

「来代は…往来…これって…」

「座右の銘の『結果オーライ』からです。」

「…まあ、自然の摂理にはかなってるかな。」

三番目は女優志望虎子。

「虎子は…玉緒?」

「伝説の大女優から頂きました。」

「ああ、そう言えば聞いたことある。」

四番目は理事長の娘光。

「光は…小田中。そのまんまだね。」

「はい。ありのままの自分で勝負します。」

五番目は農作業恋。

「恋は…棚田、か。」

「実家が棚田でお米を作ってるんです。」

「…お腹空くなぁ。おにぎり食べたい。」

最後は世話好き真知。

「真知は、下町?」

「下村真知、略して下町です。昔からそう呼ばれてたので。」

四股名も決まり、あとは本番へ向けて稽古を積むだけだ。もう筑前竜の胸を借りることはできないが、これまでの積み重ねだけでも十分だろう。あとは、女子力士達自身で力をつけてもらう他ない。

申し合い稽古などを見ていると、一番安定して力を出しているのは、小田中光だ。まわしを取ってからの投げ技など、もう何年も相撲を取っているかのような貫禄だ。
あとの力士は、まあ、似たり寄ったりの実力に見える。

ただ気になるのが、棚田恋。下半身のどっしりとした安定感は抜群で、地力はありそうなのだが、大人しい性格ゆえか、どうしても遠慮してしまう。
遠慮なく投げ技で相手を転がす小田中光とは対照的だ。

できればもっと闘争心を身につけて欲しいところではあるのだが、そんなのは人に強要されるべきものでもない。棚田恋については、じっくり見守ることにした。

そして、女子相撲団体決勝大会の日が訪れた。

女子相撲団体決勝大会の会場は、武道館だ。
八チームのトーナメント方式で、準々決勝は午前中に、準決勝と決勝は午後に、つまり一日の内に行われる。

各チームは五人+補欠一人で、各試合は、先鋒同士から大将同士まで順に戦い、先に三勝した方が勝ちとなる。

また、力士の格好は、当然肌をあらわにするわけにはいかないので、レオタードの上にまわしをつける形になる。

支度部屋で鈴木は、オーダーを力士達に告げた。

「先鋒西九条、次鋒往来、中堅玉緒、副将小田中、大将棚田、補欠下町。」

皆、小田中光が大将だと思っていたので、やや驚いている。小田中光が不満を口にする先手を打って、鈴木はフォローを入れた。

「いや、これは副将でさっさと勝負を決めちゃおう~って作戦なんだ。とにかく三つ勝てば勝負ありなんだから。」

しかし、鈴木の本当の狙いは違っていた。

大将戦まで行くということは、二勝二敗で後がない、ということ。そこには、大関・横綱クラスの強力な力士が来るだろう。そのレベルの相手が来たら、正直、小田中光でも勝つのは厳しい、と鈴木は見ていた。
そのレベルの相手に勝つことを考えた時、可能性があるとすれば、それは棚田恋の「潜在能力」以外にはなさそうだった。
稽古場での大人しさを考えれば、この選択は一つの賭けとも言える。それでも、本気で優勝を狙うのであれば、棚田恋を大将に据える以外に方法はなかった。

決勝トーナメントの組み合わせが発表される。

鈴木達はあまり他のチームを知らないために気付かなかったが、実は、ぱっしょん部屋の位置しているトーナメント表左半分には弱いチーム、反対側の右半分には強いチームが固まっていた。しかも、試合はトーナメント表の左側から順に行われ、ぱっしょん部屋は一番左に位置しているので、次の試合までの休憩時間を一番長く取ることができる。

つまり、ぱっしょん部屋が有利になるような組み合わせになっていた。

もちろん、こんな組み合わせを指示したのは、他ならぬ親バカ理事長。
別に抽選で決めるとは言っていないので、こういうことができてしまう。…本当は、決勝で実力が拮抗するように組み合わせることになっていたんだけど。

そんな組み合わせで、いよいよ決勝トーナメント準々決勝が始まった。

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