『Nocotta』

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【十四.千秋楽】

筑前竜が連勝していることは、当然、理事長もチェックしていた。ただ、最初の内は「どうせすぐに落ちていくだろう」と高をくくり、注目される上位との対戦は組まずにおいた。

しかし七連勝。これ以上の活躍は、何としても阻止したい。
そこで、八日目からは上位陣を重点的に筑前竜にぶつけていくよう、審判部に指示を出した。

八日目からは、三役や大関との対戦が軒並み続いた。
三役全てに勝ち、大関三人の内二人には負けたものの、優勝争いに絡んでいた大関剣山つるぎやまは何とか倒した。剣山を倒したのは、優勝のためには非常に大きかった。

この結果、十四日目を終わって、ケガ上がりで稽古不足の一人横綱蒲戸岩が三敗、筑前竜が倒した剣山が四敗、そして筑前竜が二敗。

こうして千秋楽、筑前竜と横綱の取組が組まれることとなった。

千秋楽、結びの一番。

東方、横綱蒲戸岩。西方、東前頭十七枚目、筑前竜。

両者塩を撒き、土俵中央へ。

「見合って。」

互いに仕切り線に手をつき、顔を見合わせる。横綱の目がギラギラしている。
横綱という地位にある以上は、調子がどうであろうと言い訳は許されない。そんな勝利への貪欲さに、筑前竜は完全に呑まれてしまった。つい、視線をそらせる。

二度目の仕切り直しでも目を合わせられないまま、制限時間いっぱい。

「待ったなし。」

土俵中央で向かい合い、行司の軍配が返る。

横綱が先に片手をつき、悠然と構えている。そこへ筑前竜が両手をつき、向かっていく。

筑前竜は頭をつけ、右前まわしを取る。横綱が右上手を取ろうとするが、筑前竜はそれを何とかしのぎ、隙をうかがう。しかし、横綱は隙を見せない。体の一回り大きな横綱に、まったく攻めさせてもらえない。

「はっけよい」

筑前竜が前に出ようと押しにかかるが、逆に横綱に押し返され、そのまま横綱が前に出てくる。筑前竜は食い止めようと踏ん張るが、膝に十分な力が入らない。寄られて筑前竜に隙ができ、横綱が右上手を取った。すかさず強力な右上手投げ。一度はこらえたものの、二度目の投げで、筑前竜は完全に土俵に転がされた。

行司の軍配が蒲戸岩の勝ちを示す。

「蒲戸岩~」

力と体格の差を見せつけられ、筑前竜はうなだれたまま下がる。

これで横綱と筑前竜が三敗で並び、優勝決定戦が行われることになった。
両者一度支度部屋に戻り、優勝決定戦に備える。

支度部屋で、筑前竜は、腕組みをしてじっと思い悩んでいた。

少なくとも、まともに組んでは、横綱には勝てない。今までの相手のように、逆転をさせてくれるような隙もない。なら、一体どうすれば…。

「リズムもしなやかさもなかったな。」

気が付くと、鈴木親方がそこにいた。

「…リズムとしなやかさ?」

筑前竜が聞き返す。

「今までは、相手と呼吸を合わせ、体全体を使ってタイミングを合わせて勝っていた。でも今日は、ただ勝つことばかりを考えて、相手を見ることもせず、攻めを受け流すしなやかさも全くなかった。相手を倒そうとするあまり、体も心もバラバラだ。…ってまあ、俺は素人だから、よく分かんないけどな。」

何か偉そうだったかな、と、鈴木は頭をかく。

「いえ、ありがとうございます。」

そう答えて、筑前竜はまた腕組みをし、目を閉じて瞑想する。

時間が来て、筑前竜と横綱が、今日二度目の土俵に上がった。

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