『Nocotta』

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【八.屋上】

翌朝、鈴木と筑前竜、そして理事長の娘光を除く五人の生徒達は、東京メガロビルディングへとやってきた。最上階の相撲協会本部受付につく。

鈴木の姿を目にした瞬間、受付嬢が露骨に嫌な顔をした。
思いっ切り嫌われたっぽいなぁ…。まあ、別にいいんだけど。好みでもないし。

「屋上へどうぞ。」

挨拶する間もなく受付嬢が言う。

「屋上?」

鈴木が聞き返す。

「屋上へ来て頂くよう、理事長から言われております。」

「なんでだろ。ヘリでも用意してんのかな?…だと、この人数は無理だろうなぁ…重いし。」

「これ以上のことは聞いておりません。」

今日の受付嬢は一段と冷たいので、さっさと屋上へ行くことにした。

屋上へ出る両開きドアを開けると、手前と奥に二基のヘリポートが見えた。その間に位置する温室で、理事長と高都筑とおぼしき人影がくつろいでいる。

温室は、鳥かごのような形をした全面ガラス張りで、中には熱帯系の植物が植えられている。広さは…七、八メートル四方、ってところか。その中に、サマーベッドやトロピカルドリンクを持ち込んで、思いっ切り季節はずれのリゾート気分を満喫している二人。

やってきた鈴木の一行に気付いた理事長が、温室のドアを開け出てくる。

「おお、逃げずにやってきたか鈴…さぶ…」

外の寒さを忘れていたのか、コートを取りに戻る。そして、高都筑と一緒に出てくる。

「いやいや、とりあえずようこそ。で、高都筑と戦うのは…」

と筑前竜の方を見、高都筑共々、表情が固くなる。

「筑前竜…」

理事長が呟く。高都筑は、ただ黙って、筑前竜を見ている。

また余裕の表情に戻った理事長が言う。

「なるほど、因縁の兄弟弟子対決、というわけか。この三年間、一体何をやっていたのかは知らんが、ま、どれだけ高都筑に通じるかなかなか楽しみだ。なあ、高都筑?」

と、理事長はニヤつきながら高都筑の方を向くが、当の高都筑は無表情のまま、何も答えない。
それを見た理事長も、余裕の表情をやめてこちらを向き、女性陣を眺める。

「で、こちらの五人で女子団体戦に挑もうというわけか。」

「五人じゃないよ!六人だよ!」

声のする方を向くと、理事長の娘光がいつの間にかそこにいた。

「ああ、ひかりぃ~、パパ心配してたんだよぉ~。いきなり一人旅だなんて…」

「来ないで!」

猫なで声で歩み寄ろうとする理事長を、理事長の娘光が拒絶する。

「光…どうして…」

困惑する理事長。

「だってパパは、私の兄弟子筑前竜と戦う高都筑の味方じゃない!だから、私とパパは敵同士なの!」

「兄弟子って…まさか光、相撲を!?だって、あんなに相撲が嫌いで、国技館に誘っても一度も来てくれなかったのに…」

「私気付いたの。本当に嫌だったのは、相撲じゃなくて、『相撲協会理事長の娘』って目で見られることだって。だから私は、パパとは関係なく、この鈴木師匠のところに入門することにしたの。」

「光…」

理事長は泣きそうだ。表情を崩して、まだ何か言いたいようだが、それを高都筑が制する。

「理事長、そろそろ土俵へ。」

高都筑の声に、理事長は我に返る。

「あ…ああ、そうだな。では、参ろうか。みんなついて来てくれ。」

そう言って理事長は、屋上口からさらに奥の方向へと向かい、奥側のヘリポートにちょっと入ったところで立ち止まる。

「そこの黄色い線から入らないように。」

と注意して、手元のリモコンらしきものを操作する。

すると、まず、倒れていた柵が起き上がった。柵は、高さ一メートルぐらい、ヘリポートの内側ざっと十五メートル四方を囲んでいる。
そして、柵の内側の床が左右に割れ、下から瓦屋根がせり上がってくる。瓦屋根は、目線の高さぐらいで止まる。
その下には、深さ五メートル程度の空間があり、中央には土俵がある。

「ヘリポートを二基同時に使うことなんて滅多にないからさ、ビルのオーナーを説き伏せて、こんな土俵作っちゃった。」

理事長は得意げだが、「あえてこんなところに土俵作らなくてもいいだろう」と、その場にいた誰もが思った。

「これ、どんな時に使うんです?」

一応、鈴木は尋ねておいた。

「使うのは今回が初めてだ。いや~、こんなこともあろうかと、作っておいてよかった。」

「こんなこともあろうかと」って、今回の事態は絶対想定外だろう。それに、「今回が初めて」って、使う予定もないのにこんな大掛かりな仕掛けを作るなんて、そんないい加減な経営で大丈夫なのか?

…とツッコミどころは多々あったが、今はそれどころではないので、軽く聞き流しとくことにした。

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