『Nocotta』

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【七.前夜】

そんなこんなで稽古をこなしながら、決戦前日、火曜日のダンス教室。

その日、理事長の娘光は来なかった。
ちょっと旅してきます、と、他の生徒達にはメールが行ってたらしい。

「ああ~、僕にはメールなしか。ぐっすん。」

鈴木はちょっとしょんぼり。

「え?師匠には来なかったんスか?自分には来ましたよ。」

筑前竜が追い討ちをかける。落ち込む鈴木を、世話好き真知が慰める。

「それはきっと、信頼してるから、ってことですよ。百の言葉より伝わる思いがある、以心伝心、知らぬが仏。」

結果オーライ来代も乗っかる。

「そうそう、大事なものほどぞんざいに扱ったりするやないですか。高い指輪ほど、『あれどこやったっけな~』って。」

「それは多分あなただけ…」

農作業恋がボソッとツッコむ。

何の話だかよく分からなくなって、鈴木も気を取り直す。根が単純な分、切り替えも速い。

そしてダンシング。 筑前竜もすっかり中級者の貫禄だ。

「ところで、こんな曲作ってみたんだけど。」

鈴木が曲をかける。アップテンポにリズムを刻んだイントロが始まる。

そして…

「Nocotta! Nocotta!」

リズム主体の曲の中に、そんなボーカルが要所要所に入れられている。

「ってことで、曲名は『Nocotta』、ね。」

鈴木が広げたディスプレイに、「Nocotta」の文字が大きく表示される。

リズムの取り方は、一つのフレーズが四拍子の一拍に対応している。つまり、「Nocotta! Nocotta!」で二拍。

「えーと、振り付けは大体こんな感じね。」

鈴木がやってみせる。

「Shiko-Fumi! Shiko-Fumi!」

四股を踏む。

「Suri-Ashi! Suri-Ashi!」

…言わずもがな。

そんな感じに相撲の用語と動きが織り込まれたダンスを、皆で踊った。

夕方、ダンス教室が終わって、一同は近場の水着で入れる温泉へと向かった。
温泉に着くと、水着に着替えてさっそく入浴。

「ふう~」

大きく息をつきながら、みんな上を見上げる。
ここには岩風呂風の露天風呂もあって、見上げれば多少の星も見える。あまり多くは見えないが、それでも、都市の空洞化の影響で、一頃よりはだいぶましな星空になった。

「いよいよ明日か…」

筑前竜が呟く。

「明日なんだなぁ…」

鈴木も続く。何だか、変な感じだった。 何でいきなり相撲なのか、自分でもよく分からない。思いつき、としか言いようがない。
理由なんていらないのかもしれない。人の為すこと全てを理屈で片付けようとする方が、無理がある。
鈴木が相撲部屋を作りたいと思いついて、その意思にこれだけの人がついて来てくれた。

「なるようになる、よな…」

古来より人は、星の営みで未来を占ってきた。それはつまり、人の為すこと、人の世など、星の瞬きほどに不確かなもの、ということだ。
人間万事塞翁が馬、理屈で考えたってそうそう思うようにはならない。
ならば、今この瞬間感じているこの思い、情熱を、精一杯形にしてみようじゃないか。
ちっぽけな人間にできることなんて、ただそれだけのことなのさ。

そんなことを、星空に思ってみた夜だった。

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