『Nocotta』

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【六.理事長の娘】

「…ま、無理強いするわけにもいかないしな。このメンバーで行くか…」

とにかく、目下の目標は筑前竜を高都筑に勝たせることだ。それができなければ、女子相撲にだって出られない。

さっそく、筑前竜にダンスを手ほどきしていく。

まず、リズム感は上々。まだまだぎこちなさがあるものの、リズムに合っているので、それなりの形にはなっている。
そして、三十分もすると、だいぶキレのある動きになってきた。さすがに飲み込みが早い。
元々体の柔軟性があり、また体の大きさも手伝って、かなり迫力のあるダンスになってきた。

「力士のダンス…新たな隙間産業発見か?」

そんなこんなで二時間半、たっぷり汗を流す。

「いや~、いい汗かいた。」

水を飲みながら筑前竜が言う。眠っていた感覚が一つ一つ、開いていくようだった。
あと六日、不安を時々よぎらせながら、でもやるしかない、と心を決める。

その夜。

小さな公園のブランコに、理事長の娘光はいた。

(何で、いきなり相撲なんだよ。)

過去の記憶を振り返りながら、自分に問いかける。

(パパとは全く違う世界で生きたかったのに、「理事長の娘」なんて肩書きをつけられるのが、ずっと嫌だったのに…。先生も無茶苦茶だよ。いい大人が、思いつきで相撲部屋始めようなんてさ。)

考えれば考えるほど、何もかもが嫌になっていく。

「隣、いいかな?」

声をかけてきたのは、世話好き真知だった。

「真知さん…あ、どうぞ…」

隣のブランコに世話好き真知が座る。

「お相撲取るの、嫌?」

世話好き真知が問いかける。

「嫌…」

「そっかぁ…。私としては、取って欲しい、あなたが取るとこ見てみたい、けどな。」

「そんなの…理事長の娘だからって、いきなり相撲取れたりはしませんよ…」

理事長の娘光は、うつむいたまま答える。

「理事長の娘だから、とかいうのでは、ないんだな~。そういうのではなくて、ただ、あなたという人間、あなたという一人の女性が、取るところを見てみたい。」

「でも、なぜか先生がいきなり相撲部屋やるなんて言い出して、本物の力士がやってきて、みんな何だか話に乗っちゃって、私は理事長の娘で、だから私もやる、っていうのは…。もしかしたら、やっちゃえばできるのかもしれないけど、だからって…」

全くやりたくない…というわけではないらしい。自分の心のありかをつかみかねているようだ。

「もし、その力があるのなら、それができるのなら、そして力を発揮するチャンスがあるのなら、やってみてもいいんじゃない?
 状況に流される、とかではなくて、自分の力が生かせるなら、それが必要とされるなら、自分の心に一握りでも前向きな気持ちがあるのなら、それをやっちゃうのが、後悔しないコツだと思うよ。」

「一握りの前向きな気持ち…」

「ダンスだって、別に『リズムに乗れ!』って命令されてるわけではなくて、乗りたいから、それが楽しいから、自分の意思で乗ってる。
 だから、自分に嘘をつく必要なんてないよ。心の底から、それは自分のすべきことじゃない、と思うなら、無理することなんてない。
 でも、こんなところで迷ってる時点で、きっと一筋の光が見えてるんじゃないかな~と思って、ついつい、余計なお世話しちゃった。」

「真知さん…」

理事長の娘光は顔を上げ、世話好き真知を見る。

「迷える、ってのは、それだけいろんな選択肢、いろんな可能性があるってことだから、大いに結構なんじゃない?若さゆえ、かもね。」

理事長の娘光の顔が、少し笑顔になる。
世話好き真知は立ち上がり、お尻を軽くはたく。

「自分の本当の気持ち、つまり、理事長の娘だから、とかではなくて、光ちゃん自身の心からの気持ちを、大切にね。
 じゃ、今夜は冷えるから、考え込みすぎて風邪を引かないようにね。」

そう言い残して、世話好き真知は帰っていった。

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