『Nocotta』

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【二.受付】

次の日鈴木は、相撲協会が最上部に入っている「東京メガロビルディング」にやってきた。

東京メガロビルディング…名前からして時代錯誤な、四十階超のビルである。
都市が空洞化している現在、こんな巨大なビルをわざわざ建てる必要性はない。
実際、建物の半分ぐらいは、実質的に使われていないらしい。適当なイベントをちょこちょこと催したり、ほとんど名前だけの子会社に貸し出したりして、それなりに空きが埋まっているように見せてはいるが。

そんな巨大ビルの、しかも最上部に陣取って下界を見下ろそうなんてのは、ひたすら巨大化を目指した遥か前世紀の発想だ。
そんなところに位置している相撲協会に少なからず不安を抱きつつ、鈴木は、エレベーターで最上階へと向かった。

チン。

ベルが鳴ってエレベーターのドアが開く。エレベーターを出て左にすぐのところに受付があった。
ピンク色のワンピースの受付嬢がいる。

いきなり土だったらどうしよう、とか、やっぱ靴は脱いで裸足かな、とか、足袋持って来ればよかったかな…などとあれこれ想像していたが、そこは普通のオフィスになっていた。
足元も普通にカーペット。しかも静電気防止加工済。

「いらっしゃいませ。」

お世辞にもきれいな格好をしているとは言えない、というよりむしろ小汚い俺であっても、一応客として対応してくれるんだ、と、鈴木は少し安心した。

なんせ、相手は相撲協会である。いきなり巨漢力士が出てきて「アフロは立ち入り禁止!男ならマゲの一つも結って出直して来い!」とつまみ出されても不思議ではない、と、鈴木は勝手に思い込んでいた。

「本日はどのような御用件でいらっしゃったのでしょうか?」

受付嬢はあくまで事務的に応対する。

「えーと、相撲部屋を作りたいのですが…」

「は?」

「つまり、相撲部屋ってのは、力士を養成して土俵に上げる、住み込み相撲教室みたいな感じで…」

「いえ、相撲部屋ぐらい知ってます。相撲協会本部の受付担当ですから。ただ、普通、いきなりそういうことを言われるお客様はいらっしゃいませんので…」

一瞬動揺して表情が崩れたものの、さすがはプロフェッショナルの受付嬢、すぐに〇円スマイルに切り替えて応対を続ける。

「えーと、相撲部屋を開く場合はですね、まずは親方が開くことになります。親方はどなたですか?」

「私です。」

「年寄株はお持ちでしょうか?」

「いえ、持っていません。株式投資するほど余裕のある生活は送っていませんので…」

「いや、あの、株式会社の株ではなくて…えーと、『相撲協会で働ける権利』みたいなのが、個数限定でありまして、」

「ほうほう」

「それがないと相撲部屋を開けません。」

「ふむふむ…。で、それはどこで手に入るのでしょうか?」

鈴木は当然の質問をしたつもりだったが、受付嬢の顔には呆れ具合がはっきりと見える。
客観的に見れば、上辺だけでも話に応じてくれてるだけ、ありがたく思うべき流れではある。

「…失礼ですが、力士でいらっしゃったご経験は?」

「ありません。」

「では…残念ですが、親方にはなれません。」

「なんで?」

「そう決まっていますので。」

受付嬢はいい加減うんざり顔だ。

「でも、もしかしたら、力士には向いてないけど指導者には向いてる人もいるかもしれないじゃないですか。あなた達は、そんな未来への大いなる可能性を、拒絶という刀でばっさり断ち切ってしまうつもりですか!?」

「はい。」

「はい、って、そんなあっさり…」

「だって、伝統ある国技だもん。未来より過去。」

話に飽きられたようで、随分とおざなりな対応になってきた。しかし、こっちだってそんな簡単には引き下がれない。
俺は今、燃え盛る情熱の炎で身悶えしそうなんだ!

この情熱をくすぶらせたまま帰れるか!俺は今、猛烈に爆発したいんだ!

「そんな適当な理由で納得なんかできるか!あんたなんかじゃ話にならない!今すぐ責任者を呼んでくれ!」

…と、思わず叫んでしまった鈴木は、一瞬冷静さを失っていたようだ。鬼の形相で、受付嬢を怯えさせてしまった。

「では…お名前とご職業を…」

鈴木は冷静さを取り戻しつつ答える。

「鈴木圭一郎、ダンサー。身長一七九センチ、射手座のAB型、座高は…」

「聞いてません。」

「いや、この気まずい空気を和らげようと思って…(すべったけど)。あと、身長にアフロは入ってないよ。」

受付嬢が内線で話している。「理事長」という単語が聞こえた。 しばしの話の後、受付嬢が言った。

「理事長室へご案内いたします。」

ん?何か随分あっさり通ったな。

まあいいや。ここまで来たらダメ元、当たって砕けろ、当たるも八卦当たらぬも八卦だ。

そんな覚悟を決めながら、鈴木は、一番奥の偉そうな部屋に通された。

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