さびれた裏通りに、帽子をかぶりパイプをくわえ、二重回しのコートを羽織った長身やせ型の男がいた。
「私は名探偵です。」
「名探偵のコスチューム?」
「格好だけではなく、中身も名探偵。」
「パイプから煙は出ていませんね。」
「私はタバコは吸わない。」
やっぱり格好だけ、とは、言わずにおいた。
「ところで、それは何かね?」
「これは、キャベツの芯の浅漬けです。」
「ふむ…では、その浅漬け、しかも、なぜかキャベツの芯の浅漬けをヒントに、君の旅の目的を推理してみせよう。
世の中には、キャベツの芯はあるが他に食べるものはないという人がたくさんいる。
君はそういう人達のもとに赴き、彼らのキャベツの芯を漬け、食べられるようにしてから渡そうというのだろう。
世界の食糧問題解決に多少なりとも貢献しようとは、何と感心すべき話であろうか。」
勝手にいい話を作ってる。
「仙人よりは説得力ある気もしますが、だいぶ外れています。
僕はただ、キャベツの芯の使い道を求めて、旅をしているだけです。」
ショックを受ける名探偵。
「なんということだ…外してしまうとは…。
これではもう、『名探偵』とは名乗れない。
今日限り『名探偵』の看板を下ろし、明日からは『有能な探偵』に格下げすることにしよう。」
「あまり変わっていません。」
落ち込んだ名探偵にかける言葉も無く、さびれた裏通りを後にした。
。。
帰ってきた。
キャベツの芯の浅漬けを食べてみる。
ポリポリ。
思いの外、ちゃんとした漬物になっていた。
これをおかずに、ご飯を食べよう。